介護の生産性向上はICTで実現できるか?

労働集約型の介護業界では、生産性をどう向上させていくかがますます重要な課題となっている。
いかにサービスの質を落とさずに効率化を目指すか? 今まで以上に事業者の経営手腕が問われている。
今回は、厚生労働省が2016年度に実施した業務効率化促進モデル事業の結果や、実際に業務効率化に取り組んでいる介護現場の具体的な事例を通して、ICTの導入効果がもたらす利益と現場職員のリテラシー向上について探ってみた。

避けられない報酬削
減経営マネジメントのカギは「生産性の向上」

 巨額の財政赤字を抱える日本の現状からして、医療と介護にかかる費用の伸びをどのように抑制していくかが喫緊の課題となっている。2016年12月に発表された介護事業経営概況調査では、訪問介護事業所における収入に対して職員の給与費が約75%を占め、支出全体に占める人件費の割合は年々増加傾向であることが明らかになった。こうした状況下、事業を継続していくためには、人件費率を引き下げ、生産性を高めることが重要となる。

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 また、「経済財政運営と改革の基本方針 2017」でも、「人材への投資を通じた生産性向上」がテーマとして打ち出され、介護保険制度等では、「介護人材の確保に向けてこれまでの介護人材の処遇改善に加え、(中略)生産性向上を通じた労働負担の軽減に取り組む」と記載された。

 一昨年に発表された「ニッポン一億総活躍プラン」でも、「介護ロボットの活用促進やICT等を活用した生産性向上の推進、行政が求める帳票等の文章量の半減などに取り組む」と国の方針が示されている。これを受けて厚生労働省は平成27年度から「居宅サービス事業所における業務効率(ペーパーレス)化促進モデル事業」を毎年実施しており、ICTを導入することで、業務をどれだけ効率化し、生産性を向上できるのか、調査・研究を進めている。

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ICT活用のための「手引き」を作成

 モデル事業を担当する厚生労働省老健局振興課は、「ICTを導入したほとんどの事業所で、帳票類の記入・入力業務の削減や申し送りの負担の軽減が確認されました」と説明する。
厚生労働省ではICT導入を促進させるため、モデル事業の結果を手引きとして1冊にまとめ、公表している。手引きには、モデル事業の事例のほか、ICT導入にあたっての計画スケジュールと手順、セキュリティーに関する注意点も掲載されている。

 「今回のモデル事業は、あくまで事業所内でのICT活用が対象。しかし、業務効率化を促進させるには事業所間での情報共有や、多職種との連携も必要になります。今後も継続した効果検証を行なっていく予定です」(振興課)

訪問介護でICTを導入後、ケアの質が向上

 前述のように、国はモデル事業の展開などを通じて積極的に介護現場へのICT活用を促している。しかし、実際の導入にあたっては障壁も多い。特に訪問介護事業所では50代~70代のヘルパーが多く、ICT機器の使用に対する抵抗感が強いために、経営者の判断で導入を進めようとしても理解を得られないケースも多々ある。こうした状況をどう打開すればよいのか?
東京都町田市に本社を置き、訪問介護などを提供する株式会社アイケアでも、苦労したのは職員への定着だった。

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 同社は事業計画において「業務の効率化」を重点項目に掲げ、シフト作成と実施記録のチェックの削減に焦点を定めて、「カイポケ」を導入。その背景には、「管理・事務業務の時間を圧縮することで、本来、介護の専門職が行なうべき計画作成やサービス提供に充てる時間を増やし、より質の高いケアを行ないたい」という代表取締役、鎌田氏の思いが...

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